古代ローマのゴシップも豊富です。
著者のプリニウスは、ベスビオ火山の噴火で死んだプリニウスの甥。「小プリニウス」の方です。表紙にプリニウスの彫像が出ています。 顔立ちは細く、鼻筋は細く高く、口角は上向きながら厳しく絞まり、頬骨高く、なで肩で、ぶ厚い本を手にしています。 書簡の内容もこの外観とよく調和している。 努力家で、清潔で、体よりも頭がよく動く人のようです。 感情的に激しやすい面もあったようで、潔癖ゆえの頑固さも感じられます。 書簡なのに数字がまったく出てこない(別荘のレンタル料とか)こと、あまりに精神的なトーンが統一されていること、などに出版用に推敲したのかな?との疑惑があります。 だとしたら、この書簡は「プリニウスの姿」でなく「プリニウスが世間にこう思われたいと思っていた姿」になりますね。 書簡の中にラウレンティウムの別荘について、長々と説明している箇所がありますが(その長さがこの別荘に対する熱意が感じられてほほえましいのですが)、この別荘の跡は現存しているそうです。 ローマに行く前に、必ず再読しなくては。 また友人への手紙の中で、当時のゴシップをさまざま書き連ねているのが興味深い。 史家タキトゥスに請われて、叔父プリニウスの最期やベスビオス火山が噴火したときの様子など記しているますが、これがタキトゥスの著書の中でどのように記述されているか、見てみます。 翻訳は、ベスビオス火山が「ウェスウィオス」と表記されるなど、カタカナ表記のゆれが少々ありますが、読みやすく、精神的に安定したプリニウスの語調をよく伝えています。
史実を知り、空気を感じる
本書は、小プリニウスの書簡をカテゴリに分類した訳書です。 国原氏の自然で生き生きとした訳は、直訳的な歴史書の類に辟易とした経験の ある読者にもすんなりと受け入れられ、古典への嫌悪感を取り払ってくれる でしょう。 書簡を集めたものですから、一本筋の通ったテーマが特にあるわけでもありません。 中には大プリニウスに関する記述、政治への考察など、史実を当事者の視点から 見たものもありますが、他愛もないおしゃべりのような手紙も収録されて います。読者それぞれが、古代ローマ爛熟期の空気を自由に感じ取り、 イメージを膨らませることができるでしょう。 下手な考証よりもずっと、生のローマを感じさせてくれる一冊です。
小プリーニウスの代表的書簡集
日本語で小フ゜リーニウスの書簡集が読めるとは、よい時代になったものです。 しかしながら、本書は抄訳であるうえ、ラテン語の固有名詞の母音の長短を明示しないなど、いささか残念な点も見受けられます。したがって4つ星に留め置きました。 とは言い条、原文の風韻をよく伝えてくれる名訳ですし、重要な「書簡」は一応すべて翻訳されているので、ラテン語が苦手だけれど完訳が欲しいという人はLOEB CLASSICAL LIBRARY の対訳本でもお読みになるようオススメいたします。
講談社
年代記〈下〉ティベリウス帝からネロ帝へ (岩波文庫) 年代記〈上〉ティベリウス帝からネロ帝へ (岩波文庫) 内乱記 (講談社学術文庫) 古代ローマの日常生活 (文庫クセジュ) ユダヤ戦記〈1〉 (ちくま学芸文庫)
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