バスの距離感
1989年にJTBから出た単行本の文庫化。 全国各地、23のローカルバスに乗車して「終着駅」を目指した紀行文。普段は鉄道を専門とする著者だが、ちょっと目先が変わっていて面白かった。 しかし、バスの旅では宮脇氏独特の視点が失われてしまっているようにも感じられた。宮脇氏の持ち味は、部外者の視点である。田舎の鉄道では、乗車しているのは地元の人々ばかりである。沿線の風景や駅の雰囲気にしても同様である。鉄道に乗るということは、そこに素知らぬ顔で入り込んでいくことになる。同じ空間にいながらも距離感が存在するのである。ところが、ローカルバスでは、この距離が取れない。同乗者、運転手、滞在先の人々との親密な接触が生まれてしまうのである。そうすると、宮脇氏の調子が狂ってくる。冷めた視点が失われてしまうのである。 失敗した企画だったと思う。
企画と想像力、観察眼と表現力はさすが
鉄道紀行作家の宮脇さんが、僻地のバスに乗ってユニークな紀行文を世に送り出した。目的地選定の条件としてローカルバスに一時間以上乗り、世俗的な観光や行楽が目的でなく、自身が初めて訪れる終点、という項目を挙げている。その条件を満たす二十三の鄙びた土地を全国から選んでいるが、さすがに眼が利いており、よくこんな路線を見つけたな、とまず感服した。出発前にも地図を見ながらあれこれ想像をめぐらし、期待感を高めてくれる。 内容は、地形と歴史と地元の人々との会話を軸としたいつもながらの楽しくためになる紀行文であるが、見た物、聞いた物の描写が格別にすばらしい。得意の列車よりもバスの車窓の方が美しかったのではないかと思わせるほどだ。樹々の緑や動物の鳴き声、波や風の音、空の色や谷の深さなどがあざやかに表現されている。読んでいると、いつの間にかバスに揺られている心地になってくる。地味な路線バスも見方によっては何とおもしろいものかと感心した。 この話は昭和末期のことなので、すでに十五年以上が過ぎている。ローカルバスも風景もずいぶんと様変わりしたことだろう。当時を知る恰好の読み物でもある。
鉄道旅行作家のバス旅行記もマル
鉄道旅行家として有名な著者がバス旅行に挑戦。しかし、いつも通り結構楽しめます。 著者の旅行記が読ませるのは、鉄道に関する知識だけではなく、旅に行くまでの準備の説明に始まり、旅行中の素朴な会話、丁寧な風景描写など旅行記としての基本的な部分がしっかりしているからだということがわかります。 行き先は、北海道神恵内村、同別海町、同豊頃町、青森県脇野沢村、秋田県森吉町、岩手県宮古市、山形県大蔵村、栃木県黒羽町、茨城県桜川村、新潟県上川村、山梨県上野原町、長野県上村、岐阜県小坂町、石川県能登島町、三重県宮川村、京都府美山町、岡山県成羽町、島根県島根町、広島県倉橋町、高知県本川村、宮崎県南郷村、鹿児島県笠沙町、沖縄県国頭村。
新潮社
時刻表ひとり旅 (講談社現代新書 620) 鉄道に魅せられた旅人 宮脇俊三 (別冊太陽) 最長片道切符の旅 (新潮文庫) 駅は見ている (角川文庫) 日本探見二泊三日 (角川文庫)
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